【将来現金はなくなる?】”デジタル円”と呼ばれる中央銀行デジタル通貨(CBDC)とは?電子マネーや仮想通貨との違いやメリット・デメリットまとめ
先日、元アメリカ大統領ドナルド・トランプ氏の選挙演説中に発言の中にもあった「中央銀行デジタル通貨の創造を決して許さない」と述べたことにより一部で注目が集まっています。この中央銀行デジタル通貨、いわゆるCBDC(Central Bank Digital Currency)。皆さんは何のことかご存じですか?これは電子マネーのようなただの『電子決済サービス』ではなく『現金そのもののデジタル化』であり、人々の預金や財産にも関わるものです。そしてこれらは現在、アメリカだけでなく日本でも、そして全世界中で調査研究や実証実験などの議論、取組が行われている程、慎重に進みつつある事案ということを念頭に、CBDCについてその内容を理解しておきましょう。

目次
”デジタル円?”そもそも中央銀行デジタル通貨(CBDC)って何?
日本銀行では、中央銀行デジタル通貨(CBDC)について、次の3の要件を満たすもの、としています。
- デジタル化されていること
- 円などの法定通貨建てであること
- 中央銀行の債務として発行されること
円などの”法定通貨建てであること”ということは、私たちが生活の中で使用したり貯金したりしている、硬貨や紙幣等の現金をデジタル化したもので、現金円と同じくデジタル円も法定通貨として扱われるものです。
カンタンに言えば、クレジットや電子マネー等、決済の間に企業を挟む必要がなくなり決済システムの効率化や現金発行・輸送等のコスト削減などのメリットがありますが、デジタルという電子媒体であるが故のインターネット上のセキュリティ面のリスクや不安等もあります。
中央銀行では、全ての人が24時間利用できる支払い決済手段として銀行券を提供しており、これについてデジタル化することで、現金を代替するようなデジタル通貨を作る議論が生まれているのです。世界各国の中央銀行では、分散型台帳技術(DLT)と呼ばれる”中央管理者の存在しない分散されたネットワーク上で、各参加者が同じ台帳を管理、共有することができる技術”を用いて、CBDCの開発を進めています。
なぜ法定通貨のデジタル化に動き出した?そのきっかけは?
きっかけとしては、フェイスブックが2019年に発表した国家を超えて世界中で使える暗号資産「リブラ(現:ディエム)」の開発。そして、それとほぼ同時に中国が発行間近を発表した「デジタル人民元」があります。
現状フェイスブックは2022年にグループ全体の資産を米銀行に売却し、プロジェクトは終了していますが、デジタル人民元は2022年の北京オリンピックでも導入され、多くの中国企業もプロジェクトの参加を表明しています。
上記のように全世界に先駆けて、複数でデジタル通貨発行の声があがったことで、各国の金融当局が通貨主権を脅かされる危機感や発行・運用を始めた一国に世界中の取引情報が集中する恐れ等を感じ、CBDCの研究を加速させることに繋がったとされています。
一部引用/参考 : 日本銀行 「中央銀行デジタル通貨とはなんですか?」
デジタル決済とは違う?CBDCと電子マネーや仮想通貨の違いについて
クレジットやキャッシングでの決済・電子マネーや仮想通貨など現金以外のデジタル決済などの利用は増えている昨今。
”法定通貨”として意味を持つCBDCは、普段利用している電子マネーや仮想通貨とは、似ているようで大きな違いがあります。
発行/管理 | 通貨の特徴 | 使用可能範囲 | 具体例 | |
電子マネー | 民間企業 | 法定通貨基準の決済手順 | 決済業者と契約を結んだ店舗のみ | suica,iD,PayPay等 |
仮想通貨(暗号資産) | 組織・民間企業や個人 | 法定通貨基準外の独自通貨 | ビットコイン決済等が可能な一部店舗のみ | ビットコイン、リップル等 |
CBDC | 国家(中央銀行) | 法定通貨そのものをデジタル化 | 現金と同じく個人・店舗に関係なく誰でも使用可能 | デジタル人民元(中国)やe-クローナ(スウェーデン)等 |
CBDCと電子マネーでは何が違う?
- 発行元
民間企業によって発行される電子マネーに対し、CBCDは、国家機関である中央銀行が発行する点 - 使用可能範囲
電子マネーの利用は決済業者と契約を結ぶ店舗に限定されますが、CBCDは、現金と同じように店舗や個人等に関係なく誰にでも使用が可能 - 手数料や利用料
電子マネーでは、店舗側に決済手数料が2~5%程度かかるのに対し、CBCDは公共財であるため手数料無料の可能性が高い
CBDCと仮想通貨(暗号資産)は何が違う?
- 価値の安定性
暗号資産の場合、暗号資産取引所等での需要関係により、価格が日々変動し、その変動幅から投資的面が大きい傾向にありますが、CBDCは現金と同じく国が価値を保証しているため、激しい価格変動は起こりにくい - 使用可能範囲
暗号資産はビットコイン決済等が可能な店舗のみ利用可能で、CBDCは現金と同じく誰にでも使用が可能。
【課題多数?】中央銀行デジタル通貨(CBDC)のメリットとデメリット

CBDCのメリット
- 現金発行/輸送などのコスト削減
- 決済システムに関する効率化
- マネーロンダリング・脱税等の防止
- 金融包摂(全ての人々が必要な金融サービスを利用できるようにする取り組み)の促進
現金発行/輸送などのコスト削減
現金の発行や輸送、管理費について、財務省の「貨幣の製造に必要な経費」によると、令和4年度の年間予算が約170億円とされています。
現金という形あるものではなく、貨幣をデジタル化することでこういったコストの削減には繋がります。
決済システムに関する効率化
法定通貨をデジタル化することにより、日常の買い物や国を超えた送金の手配、納税手続き等がスムーズに行えることもメリットと言えるでしょう。
マネーロンダリング・脱税等の防止
デジタル通貨では、「誰がいつどこで利用したのか」等の使用履歴や情報を記録することが可能です。そのため、違法や犯罪によって入手したお金の出所を分からなくするマネーロンダリングや脱税などの不正行為を防ぐことができることができると考えられます。
金融包摂(全ての人々が必要な金融サービスを利用できるようにする取り組み)の促進
発展途上国では、銀行口座が持てないことを理由に、融資を受けられない、送金ができない、保険に入れない等の金融サービスが利用できない人々もいます。CBCDの普及により、そういった人々にも必要な金融サービスが提供可能になることが期待されているのです。
CBDCのデメリット
- サイバー攻撃等のセキュリティ面のリスクや災害時の脆弱性
- 民間銀行や企業などの金融仲介機能低下や事業圧迫の懸念
- 取付けによる流動性不足で銀行が機能不全に陥るリスクが高まる
- 取引や使用歴が記録されることによるプライバシー保護の問題
サイバー攻撃等のセキュリティ面のリスクや災害時の脆弱性
全ての取引がインターネット上で行われることにより、現金に比べサイバー攻撃の被害に遭う可能性も高まります。
震災などでシステムが停止し、オフライン状態となった場合の対応策も十分に考えておく必要があります。
民間銀行や企業などの金融仲介機能低下や事業圧迫の懸念
CBDCでは、現金だけでなく銀行にある預金までもデジタル通貨へ代替していくとされています。その場合、銀行の預金貸付業務などが縮小し、銀行としての信用創造機能が失われていく可能性があります。
また、手数料無料で利用できるCBDCの普及が増えれば、手数料のかかるキャッシュレス業者などの事業も圧迫されることは間違いありません。キャッシュレス業者の需要・必要性自体が問われる事態に繋がる恐れもあります。
取付けによる流動性不足で銀行が機能不全に陥るリスクが高まる
もし銀行が経営破綻するなどの情報が回れば、預金者たちが一斉に銀行や窓口で預金引き出しを行う”取付け”という事態になるかもしれません。その場合、CBCDでは物理的にお金を引き出す必要がない分、取付けも容易になることから、銀行側が機能不全となり金融危機に発展するリスクも高まることが考えられます。
取引や使用歴が記録されることによるプライバシー保護の問題
使用履歴が記録されることにより、脱税やマネーロンダリングを防ぐことができる一方で、中央銀行によって使用履歴情報等を管理されることが”プライバシーの侵害”になるのではないかと考える人もいるのです。現在でも、正確な納税のために年末調整・確定申告等により収入額の申告は行っています。しかし、犯罪防止になるとはいえ、個人的な買い物やお金の流動をすべて国に把握されるというのは、国家権力者への不信感が大きいほど、懸念も大きくなるでしょう。それらをいかに両立させるかがCBDC導入の大きな課題とだと思われます。
現段階での日本のCBDC実証実験
日本銀行決済機構局が発表している中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組みによると、日本は現状下記のような段階にあるようです。

まとめ
CBCD導入には、決済システムに関する効率化や犯罪防止など様々なメリットがある反面、セキュリティ面でのリスクや銀行・一部企業への圧迫、プライバシー面などの大きな課題もあることがわかります。
また、実際にCBCDを導入することになれば、預金が現金という”実体のあるもの”ではなくデジタル資産という”実体のない数字”に変わり、かつ全ての預金や、お金の使用歴や流れを国に把握・管理されるということには大きな不安や懸念がある人も多いでしょう。
冒頭のような、元アメリカ大統領ドナルド・トランプ氏の「中央銀行デジタル通貨の創造を決して許さない」という言葉が一部で注目を集め称賛されていることには、そういったCBDCに対する様々なデメリットや心理的不安や懸念を持つ人々が少なくないことを示しているのかもしれません。
導入によって顕在化する様々な問題もあることから、現状としては、各国とも実証実験は進めながらも正式な導入には慎重な姿勢をとっています。しかし現状、すぐに導入されることはなくとも、いずれ導入する可能性は多いにあるものです。
あなたはCBDCに対してどのような考えを持つでしょうか。